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2019-04

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特別でない彼女と私の物語@実録長編エッセイ

私は特別な存在ではない。
この事実を認める事が私のスタートラインだった。


文を書くのが好きな人間というものは、多かれ少なかれ目立ちたがりで自分を「特別な人間」だと思いたいものだ。
私も例外ではない。
しかし、私は凡人だった。
ハッキリ言って「平均点以下の人間」だ。
そんな私にとって、書き続ける事は自分との闘いである。


私は面白くない。
私は可愛くない。
私は独創的じゃない。
私は論理的じゃない。


それを自覚したまま、その自分を隠しながら、さも面白くて賢い人が書いているかのような文を書こうとする。
世の中には本当に面白い人も賢い人もいるのだから、そんな試みは当然失敗に終わるのに、それでも足掻き続けてきた。


しかし、なぜか私の周りには「選ばれた人間」が多く集まってくる。
理解しがたい事に彼らは私を彼らの仲間だと誤解しているのだ。
選ばれた特別な彼らに仲間だとみなされる度に、私の中のどす黒い思いは肥大していく。


どうして私は特別ではないのか。
そんなモヤモヤを抱えた時、私は知り合いのKという女性をカフェに呼び出してとりとめもない話をする。
Kはごく普通の進学をし就職をし、それでいながらある日突然そのレールを飛び降りた女性だ。
私がインタビューする相手のほとんどは選ばれた人、特別な人だが、Kは違う。
Kは私と同じ凡人だ。
しかし、Kはそのままでいる事を良しとしなかった。

Kは今、アルバイトをしながらお笑いライブの舞台に立っている。
今日はそのライブの様子を一日取材する。
と言ってもKに張り付くわけではなく、お笑いライブを開催しているライブハウスへの取材である。
最近急にテレビに出てくるようになった漫才コンビが下積み時代よく出ていた小さなライブハウス。
そこにKが出るというので、Kを通してそのライブハウスのオーナーにアポを取り、私はKの事は「ついで」という感覚でライブに出向いた。

ライブハウスのオーナーへのインタビューはライブの後なので、オーナーに会釈した後すぐに私は客席に向かう。
今日は12組の出演者がいるというそのライブは、動画サイトにも同時配信されているらしい。
それなら生で見に来なくてもいいのでは?と思いながら客席を見渡す。
客席と言っても、劇場のようにフカフカのクッションのある椅子が作り付けてあるわけではない。
白いプラスチック製の椅子を数人の芸人が開場前に並べるだけである。
こんな状況でも、席には数人座っており、その中の一人の中年男性はタブレットで写真を撮っている。
彼らがこのライブハウスに辿り着くまでにもドラマがありそうで、話を聞いてみたい気はするが、もうライブが始まるようだ。

まず出てきたのは香盤表を持ったMCの芸人。
出演者の紹介やらライブを見る上での諸注意やら、慣れた調子で説明していく。
説明は上手いのだが、どう見ても有名な独裁者を模した軍服姿の大男の「営業スマイル」には違和感しかなく、私はKの出番すら把握できなかった。

暗転し、芸人の名前が呼ばれ、ライブが始まる。
どうやらライブは数組ごとにブロックに別れているらしい。
冒頭の大男が再び出てきて、出演者とトークを始めた。
まだKは出てこない。
ネタの間は薄れていた違和感が、トークになってまた強くなる。
傷み切ったアフロヘアのカツラで体操着姿の男と、軍服の大男が並ぶ。
その画面だけ切り取ってもおかしいのに、どうもこの2人は昔なじみらしい。
どこにどんな接点があってこの2人は仲良くなったのだろう。
ネタよりも裏の人間模様の方につい意識が向いてしまう。


2ブロック目、やっとKのネタである。
Kは真っ青なアイシャドウで顔を汚して、ナンパされたと勘違いしてマシンガントークをする女を演じている。
はっきり言って、面白くない。
しかし、Kは真剣そのもの、セリフを噛んでも笑いもしない。

Kの出番が終わった後、楽屋を見に行った。
楽屋と言っても袖に付属する3畳ほどの空間である。
そこには芸人たちの荷物が散乱しており、さっきコントで誘拐犯を演じていたメガネの男が着替えをしている真っ最中だった。
私が入ってきたのも構わず男は下着姿になる。
思わず目をそらすが、ふと視線を戻すとKは着替えを見ても全く動揺していない。
MCをしていた軍服の大男と何やら熱心に話し込んでいる。
ダメ出しでもされているのだろうか?
あの汚した顔で真剣な表情をしているKはネタよりよほど面白い。
そんな失礼なことを考えながら見ていると、Kが私に気付いた。

「客席にいらっしゃってるの見えましたよ。
ありがとうございます」

そして軍服の大男の方に向き直り、私を紹介する。
すっかりKは後輩モードだ。
意外にも礼儀正しい軍服の大男は、今回の取材のきっかけとなった芸人とも昔なじみらしい。
このライブハウスで自分も毎月ライブの主宰をしているのだ、と荒いコピーで刷られたチラシを何枚も渡された。
そしてその大男は私の取材の目的を聞くと、彼らの事を話し出した。
彼らが大事な時に遅刻した話、バイトではダメな奴だという話、衣装に無頓着で私服も拾った忘れ物を平気で着ているという話、いずれもテレビでは語られていないエピソードを滔々と話す。
思わず聞き入っていると、ライブのエンディングが始まるという事でKも大男もステージに戻っていく。
ステージと言っても12組、実質15~6人が乗ればぎゅうぎゅうというサイズの代物ではあるのだが。


ライブが終わり、Kがオーナーに私を紹介する。
オーナーはメガネをかけた痩せた関西弁の男で、なかなかの野心家のようだ。
自分も芸人でもある、と言いながら取材に応じてくれたが、彼の人当たりは芸人というよりは経営者のそれにしか見えない。
それほどライブハウスの経営者が板についている。
30分ほど、件のコンビについての話を聞き終えた。
するとライブハウスの掃除を終えたMCの大男を含めた数人の芸人がこちらにやってきた。
なぜかそのままオーナーもKも含めた全員で食事に行くことになってしまった。

連れていかれたのは昔ながらの中華料理屋で、流暢なのだがどこか怪しげな日本語を話す中国人が店員をしている、という店だった。
Kも慣れた調子で定食を頼んでいるから、おそらく彼らの行きつけなのだろう。
私はKに聞きたいことがたくさん溜まっているのに、Kは芸人たちとの会話に夢中である。
仕方ない。
Kと話すのはまた後日にしよう。




数日後、私はKをいつものカフェに呼び出した。
昨今のKは逞しくなり、私の支払いであるこのカフェではコーヒーだけでなくスイーツもちゃっかり頼んでいる。
今日もKは新作だというリンゴのケーキを食べつつ、私の話に相槌を打つ。

ここ数か月、Kはあのライブに続けて出ているらしく、軍服の大男と食事に行くのもあの日が初めてではなかったという。
それを聞いて、私はKを初めて見た日を思い出す。
あの日のKは全身で他人を拒絶するオーラを出していた。
私は比較的親しみやすい容姿だと自分を評しているが、その私ですらKの懐に入るのは苦労した。
それが今のKはどうだろう。
いくら礼儀正しく話が上手かろうとも、素性の怪しいあの芸人たちと当たり前のように食事に行っている。
まさかこんなにKが変わるとは思わなかった。
だから私は取材になどなりえない無名のKとこうして今日もカフェにいる。
初めてKを下北沢で見かけて、もうすぐ一年が経とうとしていることに改めて驚き、そしてこの奇妙な縁に感謝した。
そんなセンチメンタルな気分に浸りながら、ケーキを食べるKをぼんやりと眺めていた次の瞬間。
私は抹茶ラテを吹き出しそうになる。

「私、R-1に出るんですよ」

確かに芸人をやるのならR-1には出るだろう。
あれはテレビ放映される、芸人たち、特にピン芸人たちの登竜門。
しかし、ここにいるのはKである。
この前、あの薄暗いライブハウスでどうしようもなくつまらなかったK。
1年前までお笑いなど全く縁のなかった、K。
勝てるわけがない。
間違いなく1回戦で負けるのに、出てどうすると言うのだろう?
出場回数を重ねたところで何かアドバンテージがもらえるわけではないのだから、少しは実力を身に着けてから出ればいいのに。
けれど、Kは私の言いたいことなど充分に承知している、といった風情だ。

「勝てないなら、出てもしょうがない。
宝くじみたいに運だけでどうにかなるものじゃないですもんね。
だけど、こっち側と向こう側って見えるものが違うんです。
私はもう少しだけ、向こう側から世界を見てみたい。
それだけですよ」

向こう側とこちら側、というのはおそらく舞台の上と客席を指すのだろう。
随分芸人顔が板についてきているとはいえ、Kにとって「こちら側」はまだ客席。
そんな生ぬるい覚悟だからこそ、身の程知らずなチャレンジができるのだろうか。

私の思いをよそに、いつになく訥々とKは語り続けた。

「やりたい事」のない自分にとって、芸人たちは見ているだけで羨ましくて妬ましくてしょうがない存在である事。
自分の中にこんなにドロドロした澱があったと、彼らを見るまで気付かなかった事。
やっと自覚したこの澱と向き合い、きちんと消化しなければ前に進めないと感じた事。

「ネタを書き、人前でそれを演じる。
 すると少しだけ澱が溶けて体の外に流れていくんです。
 本当に少しずつ、少しずつ。
 目に見えて減っていくわけじゃないけれど、なにせこれは30年分ですから。
 時間がかかっても、なんとかしますよ」

心の中の澱を出す作業の大切さは私も身に染みている。
私にとってはこうして書く事がそうだ。
そして、これをしなければ私は生きていけない。
Kにとってはお笑いが私の「書く事」に相当するのだろう。

その気持ちは理解した。
しかし、Kは私と大差のない年のはずだ。
ふらふらと夢を追えるような若さはもうない。
それでもKは続けるのだろう。
生きていくために、自分の中にたまった澱と向き合うために。



私は特別ではない。
それが悔しくて、特別な人選ばれた人が妬ましい。
けれど、作品を作るのは選ばれた人の特権ではない。
少なくともそう信じているからこそ、私は書き続けることができる。
そして私の手帳には年末に○がついた日付がある。
その日はKがR-1に出る日だ。
「こちら側」からKの大舞台を私は見るつもりだ。
Kが何かを見つける瞬間を、私は見届けたい。


選ばれなかった凡人にも物語はある。
だから、凡人である私は足掻き続ける凡人の物語を見届けて、それを世の中に送り出す。
選ばれた天才に嫉妬している暇などない。
そう思うと、私の心の中の澱も少し溶けて流れたように思えた。






文:朽葉矢子








このエッセイを
中野新井薬師前高円寺阿佐ヶ谷の愉快な先輩たち
に捧げます




今回のエッセイには何人かの実在する芸人さんが名前を出さずに登場しています。
当然、ライブハウスも実在です。
本当は個別にスペシャルサンクスとかやりたいけれど、それやると伏せた意味がなくなるのでw
3月に冬の話もどうかと思うけれど、リアルな季節に合わせてると話が終わる気がしないwww

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このページの管理者、朽葉。
とにかく生のステージが好き。
お笑いメインに、芝居、宝塚と西へ東へ。

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