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2019-04

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エンパワメント・エンターテイメント@キューティーブロンド

神田沙也加は天才である。
今更こんなこと私が言わなくても、って話ではあるけれど。

この芝居、アメリカが舞台で、アメリカの文化を理解していることが前提。
翻訳者泣かせにもほどがある脚本だと思う。
まず、「ブロンド=可愛いオバカさん」って感覚がなあ…日本で言うとなんだろ、これ。
巨乳が比較的近いか?う~ん。

ヒロインのエルは「ヒバリ―ヒルズの金持ち(成金)の娘でブロンド、ハイスクールではチアガール」という、モテ要素全部乗せな存在。
ただし、この場合の「モテ」というのは同時に「男から対等な存在とは扱われない」という事を意味する。
けれどエルは男に媚びた結果今のエルになったわけじゃない。
ファッションが好き、おしゃれがしたい、ピンクが好き、チワワが好き。
それは彼女がもともと持っていた彼女の一部であって、それが彼女の全てじゃない。

エルは大学でファッションマーケティング専攻、エリートの彼氏(ワーナー)は大学卒業後ハーバードのロースクールに行く。
彼は上院議員になる事を望まれる上流階級。
そしてある日高級レストランに呼び出されるエル。
さぁプロポーズだ!
と思いきや、ふられる。
「エルは可愛いけど、将来の上院議員さらには大統領の夫人にはふさわしくないから」と。

泣いて引きこもるエル。
数日後、エルが出した結論は「自分もハーバードロースクールにいく!」というもの。
ストーカーするだけなら同じ町にいけば充分なんだが、それじゃ「見返してやる」ことはできないからねえ。

本筋には関係ないが、作中では「ファッションマーケティング専攻」はあまり頭がよくなさそうな扱いなんだけども、本当にマーケティングなら統計使いまくりよ…限りなく理系に近い存在よ…



さて、すったもんだの末見事に合格。
しかしワーナーは既にヴィヴィアンという彼女を作っていた?!
ヴィヴィアンは寄宿学校で一緒だった子らしい。
黒髪ボブ、いかにも真面目そうな子。
(寄宿学校=上流階級なんだってことは昔どっかの小説で読んだな…)
ヴィヴィアン、エルに対抗心丸出しでまぁすっごく嫌な女。
ロースクールの同期生パーティーでヴィヴィアンにはめられ落ち込むエルの前に、教授の助手?的な存在のエメットが現れる。
エメットに助けられ勉強に励むエル。
だんだん成績は上向き、教授の選ぶ少数精鋭にも入れた!
そして二幕では実際に裁判でロースクールの同期達、教授と弁護団として取り組む。


この間に、エルを勉強に対して本気にさせる重要なエピソードがある。
ヴィヴィアンの存在を知り、やけになって髪を染めようと美容室に飛び込むエル。
そこにいたのはカラータイツがトレードマークの個性的な美容師、ポーレット。
2人はすぐに親友となるが、10年連れそった元カレにポーレットが愛犬を奪われていた事を知ったエル。
愛犬の誕生日に元カレの家に乗り込むも、元カレは相手にしない。
しかしエメットがある判例を口にして、法的に正しいのは自分たちだと気づいたエルは愛犬を無事取り戻し、ポーレットと抱き合って喜ぶ。
その時初めてエルにとって法律が「ワーナーを取り戻す手段」以上のものとなる。

これだけ世話を焼いてるんだから、当然エメットはエルに恋してるんだろうと予想はつく。
でも、これは「ワーナーにふられたけど頑張ってたら新しい王子様エメットに見初められた話」ではない。
あくまでエルが、エメットが、ヴィヴィアンが、ワーナーすらも自分と向き合い成長していく話だ。

二幕のメイン、裁判はブルックという女性の無実を証明するか司法取引するか、という事案。
エル以外は彼女が本当はやっているという前提で司法取引を進める。
しかしエルだけがブルックを信じ、そして同じ大学の女子寮だった絆もあって、本当の彼女のアリバイを教えてもらえる。
けれど、それはブルックが人に知られてはいけない秘密。
クライアントの信用を捨てるわけにはいかない、とエメットにすら食って掛かるエル。

エメットは恵まれない環境に育ち、努力に努力を重ねて今を手に入れた男だ。
エルみたいな子は理解の範疇にない。
エルが彼女なりにどれだけ努力していたとしても、エメットの環境から見れば「甘ったれた女の子のおままごと」に過ぎない。
けれど、エメットはそこから脱皮した。
きちんとエルと向き合った。
「甘やかされたかわいこちゃん」ではなく、「エル・ウッズ」を見ようとした。
弁護士というのは、人に寄り添う事なしにはできない職業だ。
しかも依頼人のほとんどはエメット以上の苦労なんかしていない。
エメットから見たらよくて「甘ったれ」、実際のところは「クズ」にしか見えないであろう人たち。
今は教授の助手のような事をしているからいいけれど、いつか独立した時に、エメットの苦労人としての矜持は仕事を進める上での枷となっていたはず。
そんなエメットが恋という要素があったとはいえエルと対等に話し合ったのは、すごい進歩だと思う。

エルはエメットに勉強を教えてもらいながら、自らの勉強する意味、法律の持つ力を知った。
エメットはエルと過ごすことで、「甘ったれ」というレッテルを貼らずに人をそのまま見つめる力を身に着けた。
彼らは高め合うカップルになった(まだ付き合ってないけど)
エルがエメットに服を選ぶシーンがそれを象徴してる。
「見た目にこだわるなんて」って思って生きてきた、実際見た目にこだわる余裕なんかなかったエメット。
そのエメットのわだかまりをほぐしてデパートにつれていくエル。
デパートについた瞬間のエメットの子供のようなはしゃぎ方、それまでの落ち着いた大人の男だったエメットが、エルを常に引っ張ってきたエメットが子供になってエルに着せ替えされている。
エルがエルの明るさで、エメットの失われた青春を取り戻しているようでね。
エメットがそれを受け入れていること、それがどれほど難しい事かわかるから、余計にじんとくる。



一方、ヴィヴィアンとワーナー。
このヴィヴィアン、作中でほとんどキャラクター設定が明かされていないけれど。
寄宿学校に通う上流階級、それでいてチャラ男ワーナーに夢中なあたり、本当に真面目で親の敷いたレールの上を必死に歩いてきた子なんだろう。
エルのオシャレ大好きピンク大好きな個性と、法律の勉強を両立するある意味欲張りな姿勢など理解できない子。
ヴィヴィアンから見たエルは、ワーナーを奪おうと下品な性的アピール(ピンクのタンクトップで大学いくからね、エル…)をかます邪魔者でしかなかった。
けれど、ヴィヴィアンも変わる。
きっとそれは一瞬の事ではなくて、葛藤はそれなりにずっとしていたと思うけど、芝居の中で描かれるのはほんの一瞬。
たった一言の台詞。

「最低よ、ワーナー」

これですべてを表現しなきゃなんない。
…とんでもなく難しい役だっだと思うよ。
この役を演じてたのは声優さんでまだ若い子のようだが、すごいなあ…

さて、この重要な台詞、どういう場面で吐かれたものかというと。
裁判の途中、とりあえず一人の証人の嘘を暴くことに成功したエル。
成功を祝して完敗した後、教授とエルは二人きりに。
そこでエルに無理やりキスをする教授。
タイミング良いんだかわるいんだか、ワーナーとヴィヴィアンはそれを目撃してしまった。
ワーナーは「色仕掛けでこのチームに入ったんだな」とエルをあざ笑う。
それに対してのヴィヴィアンの台詞が「最低よ、ワーナー」なわけだ。
正直、「最低よ、エル」の間違いかと思ったよ。
だってヴィヴィアンのこれまでがこれまでだもの。
だけど、その台詞言った瞬間、踵を返してワーナーおいて行っちゃうから、ああ、何かがここでヴィヴィアンに芽生えたんだな、と。

その後エルは「私は所詮キューティー・ブロンド」と歌い、ここを去ろうと決意する。
エルがどれだけ努力をしても、ブロンドのエルはビジネスの場でちゃんと見てはもらえないんだ、と。
そしてポーレットに別れの挨拶をしに行くと…そこで待っていたのはヴィヴィアン。
エルは復活!
次の法廷にはこれで行く、とショッキングピンクのスーツで現れる。
そう、これまでのエル、法廷では紺に少しだけピンクのストライプの入ったスーツ、とエルにしてはものすごくおとなしい格好してたのね。
それを、自分本来のスタイルで行く、と。

次の法廷、真犯人を暴くエル。
実験で証明するのだけど、実験にはクラスメートとポーレットが協力してくれた。
見事真犯人を立証!
ワーナーのやり直そうという台詞も蹴って、でもエメットと今すぐくっつく感じでもなくラストシーンへ。

あ、この間、ちょこちょこポーレットと新彼氏のいちゃいちゃシーンがコメディタッチで挟まってる。
ジョークがなかなかセクシーに過激で、こりゃあテレビじゃあできないわねえ、といった感じ。
法廷で証人の嘘を暴いたのもある意味色仕掛けっつ~なかなか濃いセクシーシーン。
ただね、法廷で色仕掛けやったその日にセクハラ被害っつ~流れにはまぁ思うところがないわけじゃないけども。
日本人である私の感覚とアメリカの感覚の違いなんだろう、たぶん。



ラストシーン。
ヴィヴィアンはワーナーと別れ、仕事をもって生きていくようだ。
ワーナーは中退、だけどモデルの道を目指すという。
エルは主席!
ポーレットは新しい彼氏と結婚し、子持ち。

最後は何と、エルからエメットにプロポーズ!

全員が幸せになる、可愛い楽しいハッピーエンド。
ワーナーの中退は、私はハッピーエンドだと思うのよ。
ワーナーの本当の好みはエル。
常にいい服を着て、エメットにいじられるぐらい無駄にポーズをとりまくるワーナー。
「ビッグになりたい」とは思っていただろうけど、議員や弁護士は彼の本当にやりたい仕事ではなかったんじゃないかな。
エルがエルのままで法律の勉強にも興味を持ち能力を伸ばしていく姿を見て、結婚のため選んだヴィヴィアンに男としてフラれて、やっと吹っ切れたんじゃないか。
「悪役の末路」ではなく、ワーナーの人生が始まったのがロースクールの中退。
そう感じられるような表情ではけていく演出だったのがすごく嬉しい。



とりあえず頑張ってみて、行き詰った時「自分がなぜ頑張るのか」を見つめなおして、それで新しい力を得て成長する。
エルもエメットもヴィヴィアンもワーナーも。
壁を乗り越えて、自分の「本当」と向き合って、強くなる。
そうやって力を得ることを「エンパワメント」と呼ぶのだけれど。
誰かの、特に若者の、エンパワメントされる瞬間というのは最高のエンターテイメントだと、改めて思った。

最後に。
この芝居、本物のロングコートチワワのブルーザーが出てるんだけど、これがもう可愛い、可愛すぎる。
実際に神田沙也加の家に飼われているらしい。
夜公演だったのだけど、終演挨拶の時もうウトウトしている姿が本当に天使。
グッズが売れまくってたのもうなずける。
いいなあ、ワンコ買いたいわ~。
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お笑いメインに、芝居、宝塚と西へ東へ。

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